【果ての家族】13話「三人の黒騎士 3「シウVSシンディア」」

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1

 シウは両手を無数の触手に枝分かれさせシンディアをからめとった。触手は首、右腕の関節、左腕の関節、右足の関節、左足の関節とからめている。
 不思議なことにこの間、シンディアはシウに対して抵抗していない。
 シウは余裕げにシンディアの体を引きちぎった。シンディアの引きちぎられた部位は血を吹き出し、地面に捨てられた。
 しかし、シウは笑わなかった。

「おい、生きてんだろ」

 うつろな目をしているシンディアの顔がシウの方に向いた。

「やはり原初神ですか。死神の特性がわかるようですね」

 なんと誰がどう見ても即死な攻撃なのにシンディアは生きているのだ。
 説明しよう。シンディアが契約している死神は暗黒神ダイデスが持つ不死性を得られる。そのため、契約者の持つ死そのものがダイデスの支配下に置かれダイデスの命令が無ければ死ねない。
 ダイデスに死を管理され未来永劫生き続ける不死身の戦士となっている。それが、死神である。
 ダイデスを裏切ってしまえば死ぬのが確実だろう。現にそうなったものもいる。
 

「それに、私が“冥”の称号を持つ死神ですから、どのような攻撃が来るのかわかるでしょう」

「……」

 “冥”の死神とは死神でも特上級に位置する死神。他の死神と差が激しすぎので置かれた位。
 特徴は「世界を1つ破壊したことがある」。そのため、“冥”の称号を持つ者は全て世界を1つ破壊したことがある。
 所持者は4人。冥書、冥造、冥槍、冥王の4人。かつて在籍していた一人もふくめて5人。
 そして、シンディアの異能。

「さてと、異能を使いますか」

 シンディアが口を動かしたその時だった。シンディアの体の部位が皆、1枚の白い紙に変わっていく。体も一枚の紙に。
 シウはまずいと思い距離を取る。

「とっても無駄ですよ」

 不穏な響きでシンディアの声が聞こえた。

「これぞ、我が覚醒異能「紙」。自らの体を紙にする。それだけではありません」

 紙が自らを破りちり紙となった。
 すると、シウの触手に無数のちり紙がひっついていく。何をする気だ?
 なんと触手が紙になっていく。
 シウは危険を察知して触手をすべて外して新しい両腕を生やした。
 そう、これがシンディアを“冥”にまでのぼりつめた力である。紙を相手にひっつけて紙にする。しかも紙にされた相手は異能「紙」が無ければ動けず破られてしまえば体がバラバラとなる。
 シンディアは死神であるためバラバラにされても平気。そうでもないものは死ぬ。
 多くの神々を皆殺しにした異能で時間と余裕があれば世界を1つ紙にして破ることが可能。

2

「さすがは原初元帥、おわかりな行動ですね」

 シウは距離を飛んで後ろに後退した。
 シンディアに勝てる方法は、はっきり言ってない。なぜなら、シンディアの死はダイデスに管理されているから死なすことができない。死神に対する有効な手は「種族変換」しかない。
 魂に干渉可能な原初神最大の武器。しかし、これを行えば兄弟たちが黙っていない。シンディアは死神でダイデス所属。つまり、原初神が原初神の所有物を奪うことになる。よって、兄弟や親が文句をいうのは明白。
 ならば、動けなくさせるしかない。

「やれやれ、普通のやつならアタシ相手に怖くなって逃亡するのにな」

 シンディアは細く笑う。

「ええ、ですが相手は永遠の命を持つ死神。原初神に対して有効な戦い可能ですよ」

 しかし、シンディアはここに来て疑問に思った。これだけ勝てる要素が無いシウは依然として余裕である。あきらめるどころか勝てる要素があるのをまだ確信ている。あたりを見渡しても勝てる要素など無い。
 あるのは木々や雑草、枝に囲まれた森だ。どこに勝てる要素があるというのだ? シンディアの力で紙にすることで解決するのだから。
 果ての神も動いていない。加勢に入らない。
 いくら考えてもシンディアの頭に結論が出ない。

「その余裕……どこまで持つでしょうか?」

「さあな、やってみろよ?」

 シンディアの紙がシウの体にまとわりつく。しかし。

「なめんじゃねえぞ!!」

 シンディアの紙が1つ1つ鱗に変わっていく。まだ張り付いていない紙が離れてゆきあつまりシンディアの体を構築した。
 左腕、右足、右腹、右胸、左眼球を失っているが死神の力で瞬時に再生した。ついでに破れた服と壊れたメガネも再生している。

「……物質変換の異能」

「そうさ。原初神、最上級神が持つ権限の1つさ。油断を解いてみたがやはりきいたようだ」

 少し本気を出してみた。シンディアにはわかることだ。
 だが、依然として事態は変わっていない。好転することもない。シンディアは油断しないよう分厚く黒い本を広げた。
 本から大量の弾丸があらわれた。それらが銃に装填されたわけではなく素早く飛びシウの体にめがけて飛び回る。
 シウは薄い結界を張った。シンディアの銃弾は結界に衝突したが、不可思議なことがおきた。
 弾丸が赤珊瑚、真珠に変換されていく。大量の弾丸が真珠、赤珊瑚に変換されて攻撃どころではない。
 これはシウが持つ魔法「物質変換結界「赤珊瑚と真珠の鏡」」。薄い結界を張っており物質、魔法が当たればすべて赤珊瑚と真珠に変換される。どれに変換されるかはランダム。生物には意味がない。

「ここまでとは、本気ですね」

「ああ、おかげで良質な赤珊瑚と真珠が回収できた」

 シウは余裕だ。シンディアは不安に思った。シウの余裕は何か狙いがあるはずだ。いくら視界にうつるあらゆるものを見ても答えがでない。
 ……まて、なにかある。果ての神だ。先から微動だにしていない。なぜ、動かない?
 自分の娘に対して何かいいたことがあるはず。侮辱やねぎらいの言葉を言うはずだ。なのに言わない。
 シンディアは右手で小石を拾い果ての神に向かって投げた。当たったその時だった。
 果ての神が白くなり砂に変わった。

「!?」

*3
 シンディアは自分が失態を起こしたことに気づいた。いくら振り返っても戻ってこない。
 シウは時間を稼ぐためシンディアと戦っていた。シウはシンディアを打ち負かすことが勝利ではなくどんなことをしても果ての神を館に侵入させるのが目的であり捨て駒にされても問題はない。
 果ての神がどこへ行った? どこへ?

「はっ! お前が無駄な攻撃ばっかしたおかげで親父は館に侵入できたぜ!!」

「ふざけないでください!! どう見ても打ち合わせなんかして……」

「するわけないだろ。親父とアタシは何年の付き合いあると思っている? 何を考えて動くのか合図無しでわかるだろ」

 嘘、実際は原初神の権限で心のなかで相談して動く準備をしていた。
 シンディアが紙になると果ての神は体を白い砂の人形にして土の中をミミズとなって動き回っていた。紙なったシンディアはシウとの戦いに夢中でそれどころではない。

「クソォ! こんなことを……」

「こんなこと? バーカじゃねえのか? お前のミスなんざ誰もがどうでもいいと思ってんだよ」

「今、あなたにかまって……」

「ああ? 聞こえないな~。おバカ死神を見るとバカにしたくなるな。ああ、おやつの代わりになるなこれ」

 シウはシンディアの性格を理解している。プライドが高く予想外のことが起きるとあわてる。見下しもあり見下していた者に見下されると怒る。これを利用して追い打ちをかけるように見下す発言をする。

「オメーなんざ家に引きこもって紙飛行機作って売店に出してろってんだ」

「うるさい!」

「やーいやーい! それが、冥書様かよ!! けっさくだぜ!」

「黙れ!!」

「ああ、聞こえないな? もともと、お前なんかより調和十騎士団のほうがすげえに決まってんだろ。常識だろ」

「こおおのクサレクラゲがああああああ!!」

 あまりの怒りでシンディアの体から大量の紙が吹き出した。これは体の一部というより魔力の塊。
 シウは面白そうに見ている。

「さあさあ、来いよ! ダイデスちゃんに怒られるかもね~」

「うるせええええええ!!」

 大量の紙がシウに襲いかかるもシウは再び結界を張り赤珊瑚と真珠に変えた。

「はい、ありがとう」

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